ちょうどみんなが10歳になった年の秋の10月、小さいのが食欲をなくして、吐くことが何日か続きました。動物病院に連れて行くと、とても具合が悪いことがわかりました。腎臓結石という病気だったのです。でもそのとき、困ったことに私はアメリカに行く仕事がありました。悩んだあげく予定をできるかぎり短くして、小さいのを入院させて出発することにしました。
でも入院のあいだひとりでいるのは心細いかもしれません。友だちにタロットカードを読んでもらって、小さいのがとんなふうに思っているか聞きました。するとタロットは、小さいのは他の兄妹たちよりももっと私のそばに居たくて、私が3匹とも対等にあつかうのに少し不満だったのを示しました。友だちは、小さいのとふたりだけで過ごす時間を作るように言ってくれました。部屋の戸を閉めてふたりだけで1時間くらい話しました。小さいのはとてもうれしそうな顔をしていました。でもしばらくして私が一度部屋を離れて戻って来たら、何かを決めたようにきびしい顔つきになっていました。
出発の朝は最後まで出かけるのをよそうかと迷ったけれど、覚悟して小さいのを動物病院に連れて行きました。一瞬もう会えなかったらどうしようという気持ちが横切りました。アメリカに着いて2日目,獣医さんが国際電話で小さいのが亡くなったのを知らせて来ました。獣医さんは、小さいのを自宅に連れて帰って最後まで看病していてくれました。
私は悲しくて何をしていいのかわかりませんでした。飛行機の予定が変えられなかったので、あと3日間アメリカにいなければいけません。小さいのが亡くなった翌日は、ホテルのロビーのソファに座って何もしないでいました。すると、足下の目の前に太陽の光が射してきて、その中に小さいのが座っている姿が見えました。じっとたたずんで私の方を見て微笑んでいました。よく見ようとすると何もありません。でも、あの子が本当にそこにいるのを感じました。
小さいのの亡骸は、獣医さんに頼んで傷まないように凍らせておいてもらいました。日本に戻ってから、小さいのを迎えに行きました。思ったよりも小さい箱に入ってしまったのに驚きました。部屋につれて帰って箱を開けると、苦しそうな顔のまま凍っていました。茶色いのと丸いのには、何があったかを説明してあげました。2匹ともしばらく、凍ったままの姿を眺めたり臭いを嗅いだりしていたけれど、何が起きたのか理解したみたいでした。でも茶色いのは信じたくなさそうな顔をしていました。