茶色いのは、小さいのの具合が悪いことがはっきりしてからは、ずっとそばに寄り添って心配していました。小さいのが座ったまま動こうとしないと、身体を舐めてあげていました。小さいのが亡くなったのを理解してから、茶色いのは塞ぎ込んでしまいました。声をかけてもあまり遊ぼうとしません。じっと座ったままでいることが多くなりました。
小さいのが亡くなって1ヶ月半ほど経った冬の1月、茶色いのが息をすると、妙に肩があがったりさがったりしているのに気がつきました。気になってすぐ動物病院に連れて行くと、やはり具合が悪くなっていました。膿胸という、胸にリンパ液のような水が溜まる病気でした。
検査しても原因はわかりませんでした。でも放っておくと、胸に水がたまり続けて肺や心臓を圧迫して死んでしまいます。注射器を刺して溜まった水を吸い出すしか治療する方法はありませんでした。しかし、一度水を吸い出しても10日間くらいでまた溜まってしまいます。それからは毎週のように動物病院に通うようになりました。
その年の8月も終わりに近づいたころ、夜私が家に帰って来ると茶色いのと丸いのがいつものように玄関から出て来て迎えてくれました。茶色いのは、少しだけ玄関から出て外を眺めるのが好きでしたが、その夜はやや苦しそうなのがわかります。次の朝すぐ動物病院に行くことにしました。
ところが、朝になって茶色いのが私を起こしに来ると、すでに口を開けて苦しそうに息をしています。私はすぐ出かける用意をして待ち動物病院が開いたらすぐ電話して、連れて行くことを伝えました。
茶色いのをそっとペットキャリアに入れて外に出ました。茶色いのは自動車の音が嫌いでした。まだ朝だから、道路はすごく渋滞してうるさいのです。早く静かな通りに入ろうと急ぎました。でも、2つ角を曲がって静かな場所に入ったとき、茶色いのは身をよじらせはじめ、一瞬引きつると手足が突っ張り始めました。撫でても揺すっても突っ張ったまま、何かが起きたのが明らかでした。
動物病院までは5分もかからないはず。私は走って病院に駆けこみました。獣医さんはすぐに人工呼吸と心臓蘇生の電気ショックを試しました。でも茶色いのは、もう硬くなったまま息を再びすることはありませんでした。そのあと獣医さんは、茶色いの胸にたまった水を抜いてくれました。それまでで一番多い水が出て来ました。
茶色のはきっと、小さいのが死んでしまったことがつらくて、胸が押しつぶされそうな気持ちだったのでしょう。そして、それを本当に自分で病気にしてしまったような気がします。もしそうなら悲しいけれど、それほど茶色いのは小さいのを気遣っていました。茶色いのはいつも兄妹を守ろうとしていましたから。好きな誰かのことを猫でもこれだけ気遣うことができるのに、これにも及ばない人間がたくさんいるのは何故でしょうか。