丸いのはひとりになってしまいました。でもそれから6年以上も私といっしょに居てくれました。最後の1年半はあまり楽ではなかったかもしれません。慢性腎不全という病気なのがわかったからです。これは腎臓が弱ってちゃんと働かなくなる病気で、治ることがありません。治療は生きられる時間をなんとかを延ばすことだけです。そして、この病気は10歳を越えた猫の半分以上に起きる病気です。
慢性腎不全の治療は、毎日のように皮の下に点滴液を注射することです。液は皮の裏側から吸収されて、弱った腎臓が働くのを助けます。でも治療をしていても、丸いのはだんだんと痩せていきました。
16歳の年の冬の12月、それまで1年以上落ち着いていた丸いのの容態が変わり始めました。慢性腎不全にかかわって再生不良性貧血という病気も起きたために、血液が薄くなり始めたのです。それからは1週間に1割ずつ血が薄くなっていきました。1月の終わりになると、普通の猫の1/3くらいの血の濃さしかありませんでした。ご飯は食べても、少しだけで休んでしまいます。大好きだった鰹節も少ししか食べません。そのかわり、今までぜんぜん興味のなかった甘いものを食べるようになりました。白あんとレモンクリームのビスケットが好きでした。そして2月になって何日か過ぎたある朝、立って歩くこともむずかしくなりました。
私は、丸いのの命がもう数日しかもたないのを覚悟しました。もしかすると一晩かもしれないと思いました。それでもあきらめる前に動物病院に相談すると、輸血するとしばらく生きられる時間を延ばせるかもしれないことを聞きました。でも輸血は、血液が合わないとその場でショック死してしまうこともあります。それでも、もう、少しでも良いからこの子といられる時間が欲しかったので、輸血することを決めました。
動物病院に住んでいる猫2匹が血液をくれました。全身の血液のほとんど半分を足したことになります。輸血のあと、身体がすぐに暖まってきました。でも家に戻る途中で身体を引きつらせて痙攣しました。
輸血をしてから2日間は、丸いのは食欲も出てよく食べました。でも3日目になると、また起き上がれなくなって、寝たまま意識もはっきりしなくなってしまいました。輸血でも無理なくらい腎臓が弱っていたのでしょう。水は注射器で飲ませました。食べることができないので、糖分をスポーツドリンクであげたら少し起き上がれるようになりました。
でも歩けなくてトイレにも行けないので、ビニールの上にバスタオルを敷いて、寝たきりでも過ごせるようにしてあげました。タオルが湿ってくると、丸いのは何度か小声で鳴いて私に知らせます。そうして私は新しいタオルに取り替えてあげます。
その週の金曜日は満月の数日前でした。夜に点滴してドリンクを飲ませてからしばらくすると、じっと横になっていた丸いのが突然、手足をばたつかせて暴れました。まるで高い所から落ちて何かを必死に掴もうとしているみたいでした。10秒くらいで発作は止まったけれど、何か恐怖を見たように、眼を見開いたままで歯を食いしばっていました。
それから30分くらいして、タオルとしっぽを汚してしまったので、お風呂場にお湯を用意して洗ってあげました。でも私の腕の中で洗ってあげているうちに、長いうめき声を出して手足を突っ張らせてしまいました。まるで何かが抜けて行くようでした。身体はそれでも5分くらいまだゆっくりと息をしようとしていました。心臓もそれから10分くらい動いていました。人工呼吸もしてみました。でも抜けて行った何かは二度と戻って来ませんでした。それが最後でした。